はじめに

 オルガネラ(細胞小器官)は、動物、植物、酵母など、真核細胞に存在する構造体で、ミトコンドリアにおけるエネルギー合成、葉緑体における光合成など独自の機能をもっています。種子が発芽して成長し、やがて枯れるという植物の一生において、オルガネラは様々な働きを担っています。例えば、私たちが研究しているペルオキシソームは、種子の発芽時には貯蔵した脂肪を分解する働きがあり、幼植物体が光合成能を獲得するまでのエネルギーを供給します。発芽した子葉は、光を浴びると緑化し、光合成によりエネルギーを生成できるようになります。この時のペルオキシソームは、脂肪を分解する機能から、光合成の際に生じた副産物を再回収する光呼吸という機能に変わります。ペルオキシソームの他にも、緑化時にはエチオプラストからクロロプラスト (葉緑体) への変換が起こり、大きさも機能も劇的に変動します。また紅葉の際にはクロロプラストからクロモプラストへの転換が生じ、葉の色が変わっていきます。このように、植物の営みにはオルガネラの機能および形態の変動が伴っています。

 オルガネラは、機能を変えるだけでなく、細胞の成長や分化、植物個体が置かれている環境に応答して、分裂して増殖したり、新たに生成したり、逆に消失したりします。また、独自の機能を発揮するだけでなく、オルガネラ同士の相互作用が、細胞の機能維持に重要であることもわかりつつあります。こうしたオルガネラの機能変換や動的変動は、植物細胞の成長や分化に伴って頻繁に観察される現象であり、オルガネラ分化の可塑性として捉えることができます。このオルガネラ分化の可塑性が、環境と一体化して生きている植物を支えています。

 私達は、こうしたオルガネラの機能変換や動的変動こそが、植物細胞の、ひいては植物個体の柔軟性を支えている基本機構の一つであるという視点にたち、細胞生物学、分子生物学、生化学、遺伝学、イメージング技術等を駆使して、その制御機構を分子レベルで明らかにする研究を進めています。

研究概要リストへ!